[あつこ] 日本では7月から全てのテレビ放送がデジタルになります。来年からデジタル放送を担うスカイツリーも634mに達し、東京の新しいランドマークとして注目を集めています。
先日、その足元にある向島に行ってきました。向島は芸者の街、花街、花柳界として有名なところです。今も路地に住居や店がひしめき合う下町情緒のあるところでした。
そんな店の間にひっそりと羽子板資料館があります。ここはもともと羽子板職人、西山鴻月氏の工房だったところですが、現在は氏の作品と氏が江戸時代の後期から明治時代に作られた羽子板コレクションが展示されています。
西山鴻月氏は15才で羽子板作りの職人に弟子入りし、90歳の今も現役で羽子板を作っています。
氏は羽子板の魅力を次のように語ってくれました。
「歌舞伎にしても舞にしても大きな舞台が必要でしょう。この羽子板1枚にその世界を全て表すことが出来る。そのためには歌舞伎も舞も知り尽くしてなきゃいけません。
でもね、歌舞伎のお話一つ丸ごと、自分の思うように羽子板に創りあげることが出来ます。この羽子板には他の人の手は一切入ってないんですよ」
役者や女性の顔から着物の柄まで全て自分でデザインし、自分で描くという氏ですが、そこには芸術家といった俗世から離れた雰囲気は全くありませんでした。
150年経っていると言う羽子板の役者の顔が今も鮮やかに残っていることに驚くと、氏は言いました。
「それが顔料の良さですよ。ですがね、何よりもお持ちになっていた方が大切にされていたんですね」
この言葉に、氏がいつも羽子板を手に取る人のことを思いながら、羽子板作りに取り組んでいることが伺えました。いつもお客様に感謝し、自分の仕事に誇りを持っている職人魂を感じます。
きらびやかな羽子板に囲まれ、一つの仕事に人生を賭けた人物の話を聞くことが出来た小さな資料館で過ごした時間はとても豊かな時間でした。
外に出ると雲がスカイツリーのお腹の辺りを覆っていました。新しいものが毎日生まれる東京ですが、何百年も続く手仕事をこの先の数百年へ伝えていこうとする人々もいる、これが江戸の粋というものかな、と感じた一時でした。
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